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河本 公文 サービス戦略研究所 代表取締役社長   
  「コンテナ型データセンター」と呼ばれる全く新たなデータセンターが台頭し始めた。その名の通り、全長40フィート(約12メートル)/20フィート(約6メートル)といった輸送用のコンテナに、サーバーやストレージ、空調や電源の設備などを搭載したものを、データセンターとして活用する(表)。ネットワークや電源、冷却装置などの設備も組み込んである。データセンターを移動や増設の容易なモジュール(ユニット)にまとめたことで柔軟性や拡張が大幅に向上。迅速な構築や展開を可能にした(写真1)

ビル屋上や山間部でも設置可能

 コンテナ型データセンターの場合、自社のニーズがあるときに必要なだけ増設すればよい。専用施設を新たに建設する必要はなくなる。過剰なスペースや設備を持つ必要がないのでコストを削減できるわけだ。トレーラなどを使って移動させることができるので、駐車場や地下倉庫、ビル屋上、海上施設や山間部など、今まで考えられなかった場所にも設置できる(写真2)
 現在のコンテナ型データセンターの火付け役は、米サン・マイクロシステムズである。2006年10月に同社は、「プロジェクト・ブラックボックス(Project Blackbox)」というプロジェクト名で、コンテナ型データセンターを発表した。これに米ラッカブル・システムズや米ヴェラリー・システムズといった新興ベンダーが続き、米IBMや米ヒューレット・パッカード(HP)も市場に参入した。

国内価格は9865万8000円から

 最初にコンテナ型データセンターを発表したサンは2008年1月、プロジェクト・ブラックボックスを進化させた「サン・モジュラー・データセンターS20(Sun ModularDatacenter S20)」を発表。サーバーの搭載容量を増加させる、冷却電力消費を抑える、地震シミュレーターを活用するなどして耐震構造を改善させる、といった点で変更を加えたものである。
 サンは10月から、日本でもモジュラー・データセンターS20の販売を開始した。価格は9865万8000円からで、受注してから約10週間で納入する。
 国内販売に当たって同社は、火災警報や消火装置といった機器を搭載。通常のデータセンターと同様に安心して利用できるようにしたという。8本の19インチラックを搭載するサン・モジュラー・データセンターS20に加え、7本の19インチラックを搭載する「サン・モジュラー・データセンターD20」も販売した。

国内販売に向けて新たなサービス体制を固めたサン
 国内販売に当たってサン・マイクロシステムズは、ユーザー企業への円滑な導入や安定した運用基盤を支援するために、さまざまなサポートサービスやコンサルティングサービスを用意している。
 例えば、冷却水や電源設備の準備、運用開始後のリモート監視(モニタリング)サービスや、設置場所のコンサルティングなどである。障害を事前に検知したり処理したりすることで、ダウンタイムを最小限に抑え、可用性を高めていくという。
 コンテナ型データセンターをユーザー先へ確実に納品するため、さらには国内認定品の火災警報・消火装置機器の安定運用のために、サンは協力企業との支援体制を固めている。
 具体的には、導入時に必要となる冷却水供給の設備、電源設備およびネットワーク機器の導入支援などだ。これらをスムーズに実行するため、NSKや太平ビルケア、日本通運、日本電算設備、能美防災、豊栄機電などと提携した。各社と総合的な支援体制につなげていく。

ベンチャー企業も参入へ

 ラッカブル・システムズが、コンテナ型データセンターの「コンセントロ・データセンター(ConcentroData Center)」を発表したのは2007年3月である(写真3)
 発表はサン・マイクロシステムズより遅かったが、市場への投入では先行した。コンセントロ・データセンターの発表から半年後の2007年9月、同社はコンテナへのサーバー搭載容量を改善した新製品「ICEキューブ・モジュラー・データセンター(ICE Cube ModularData Center)」の発売も開始している。
 ラッカブル・システムズは、大規模データセンター向けのサーバーとストレージを中心に提供する新興ベンダー。1999年に米サンフランシスコ市の対岸にあるフレモントに設立されたベンチャー企業である。2007年度の売上高は約400億円だ。
 さらにラッカブル・システムズは2008年7月、米IBMのブレードサーバーを利用するICEキューブ・モジュラー・データセンターの拡張版を開発。1台のコンテナで運用できるサーバー台数を増やしている。

独自のコンテナを活用

 3番目がヴェラリー・システムズである。同社は2008年3月に、コンテナ型データセンターの「FORESTコンテナ(FORESTContainer)」を発表し、市場に参入した。
 同社は、カリフォルニア州サンディエゴに本社を置くブレードサーバーとストレージのOEMベンダーである。1996年に創業した企業で、ブレードサーバーの草分け的存在だったラックセーバーが社名を変更したものだ。
 ヴェラリー・システムズのコンテナ型データセンターは、全長40フィート(約12メートル)という点は他の2社と共通している。だが通常のコンテナではなく、独自の筐体を用いているのが特徴である(写真4)

受注後、数週間で世界中に設置

 他の大手サーバーベンダーもコンテナ型データセンターの開発に乗り出した。
 IBMは2008年6月11日、米国でコンテナ型データセンターを発表した。これは同社が推進している「Project Big Green」、つまりコンピュータシステムのエネルギー効率の劇的な向上と地球温暖化対策を目指すプロジェクトの一環だという。
 IBMのコンテナ型データセンターの名称は「ポータブル・モジュラー・データセンター(PortableModular Data Center)」(写真5)だ。従来のデータセンターに対する冷却電力消費の改善率は50%(自社比)にも上るという。
 受注後、12〜14週間で世界のどこにでも展開できることが大きな強みだ。IBMは2008年9月末時点では、搭載できるサーバー台数などの詳細は明らかにしていない。

他社のサーバーも利用できる

 さらに2008年7月には、HPも「HPパーフォーマンス最適化データセンター(Performance OptimizedData Center)」と呼ぶコンテナ型データセンターを発表した(写真6)。40フィートのコンテナに3500以上の演算ノードが搭載可能で、4000平方フィート(372m2)のデータセンターに匹敵する処理能力を提供できるという。
 ネットワークや電源、冷却装置を利用するときは、同社の冷却技術である。「Dynamic SmartCooling」「Modular Cooling System」のほか、配電技術「Power DistributionRack」などと組み合わせることができる。
 専用のサーバーラックではなく標準的なラックを用いるため、他社のサーバーやストレージも利用できるというメリットがある。受注生産方式で、注文後6週間で出荷が可能である。

グーグルなども利用か

 コンテナ型データセンターを実際に活用しようとするユーザー事例も増えてきた。
 米マイクロソフトは今年4月、イリノイ州シカゴ郊外に建設しているデータセンターの中に、コンテナ型データセンターを採用すると発表している。
 このデータセンターは、マイクロソフトが今後のクラウドコンピューティング時代をにらんで構築したもの。オンラインによる新しいアプリケーションサービスを提供するための拠点になる。
 投資金額は、約500万ドル(1ドル=105円換算で約530億円)といわれ、敷地面積は44.1万平方フィート(4万970m2)になる。巨大な倉庫のような建物の1階にコンテナ型データセンターを設置するほか、サーバーやストレージを設置した一般的なデータセンターとして2階を利用する。
 1階は最大で220台のコンテナ型データセンターを設置するとみられ、合計で44万台のWindowsサーバーを運用できるという。従来型のデータセンターの場合は、同程度の床面積では最大8万台のサーバーしか収容できないといわれる。コンテナ型データセンターにすることで約5倍のサーバーを収容できる計算になる。
 このときコンテナ型データセンターは、壁面に対して平行ではなく、斜め45度に列を作るように設置する。一見、スペースの無駄に思えるが、コンテナ型データセンターをトレーラで搬入出する際、最も作業効率が良くなるのだそうだ。
 このほか、米グーグルも地下駐車場に立入り禁止区域を設けてコンテナ型データセンターを開発中と、米ニュースサイトのFOXNews.comが報道している。グーグルは正式には認めてはいないが、同社はコンテナを使ったデータセンターを「モジュラー・データセンター(Modular Data Center)」の名称で2003月12月に特許申請し、2007年10月9日に米国特許庁より特許を取得している。この特許は「輸送コンテナに一つ以上のコンピューティング・システムと冷却システムをモジュール構造で搭載した輸送できるデータセンター」と、非常に広範囲な領域を押さえている。このためコンテナ型データセンターでは、ほとんどの場合で抵触する可能性がある。

日本での普及は法規制が課題になる場合も
 従来のデータセンターは電源供給、装置冷却、ネットワーク接続などの機能を備えた耐震構造のビルを建設し、サーバーやストレージを、その中でいかに高密度に実装するか、について取り組んできた。そこには常に“建物ありき”の発想があった。地球温暖化問題が指摘され、CO2 排出削減が叫ばれる中、物理的な制約の少ないコンテナ型データセンターは、こうした発想を根本から変える可能性がある。
 もう一つ、コンテナ型データセンターの効果は、“測定の単位”を変えたことにある。今まで、サーバーを1000 台とか2000 台の単位で、レンガを重ねるように増設するという発想はなかった。それをコンテナ型データセンターは可能にした。
 米TechTargetの報道によると、マイクロソフト社のデータセンターの責任者、マイク・マノス氏は、「トレーラの運転手が、コンテナ型データセンターを運んで来て、自分で所定の場所に設置し、電源と水とネットワークを接続して帰って行くようになる。所定の台数のサーバーやストレージが不良になったコンテナ型データセンターを、監視センターからの指令を受けて、トレーラの運転手がケーブルやホースを取り外し持ち帰る。これからのデータセンターはコンテナの単位で物事が動くようになる」と話しており、今まさにそれが始まったところである。
 数年前から、「イノベーションのジレンマ」という言葉がよく使われるようになった。これは、「ベンダーが既存のテクノロジーを利用する顧客の、要望やニーズを良く聞き、着実に改善を重ねて、高い顧客満足度を獲得して行っている間に、気が付けば安価でそれほど高度なものでないテクノロジーにより創り出された代替品により、ある日突然、市場競争力を失う」ことを意味している。
 このことは「破壊的イノベーション理論」とも呼ばれる。コンテナ型データセンターの登場にも符号しそうである。 だがその世界の常識が日本では通用しない可能性もある。 日本でコンテナ型データセンターを利用する場合には、さまざまな法規制をクリアする必要があるようだ。例えば道路交通法一つとっても、一部で高さの制限があり、どの道路でも通行してよいわけではない。
 国内でコンテナ型データセンターが普及するには、こうした課題をいかに克服するかが問われることになる。

国内では地下データセンターに

 ネットサービス事業者以外でもコンテナ型データセンターの導入は進んでいる。グリーンITや仮想化などによるデータセンター需要の高まりが、コンテナ型データセンターに目を向けさせるきっかけとなった。
 例えば、サンのプロジェクト・ブラックボックスの第1号ユーザーは、米カリフォルニア州スタンフォード大学の線形加速器センター(Linear Accelerator Center)だ。敷地内にコンクリートで土台を作り、2007年7月に運用を開始している。
 国内でもコンテナ型データセンターを活用しようとする動きが出ている。それが「地底空間トラステッド・エコ・データセンター・プロジェクト」である。安全で安定した地底空間にデータセンターを建設し、セキュリティの確保と消費電力50%削減を目指すというプロジェクトだ。コンテナ型データセンターを活用し、次世代データセンターの在り方を提言することを目的とする。サンや大手ISP(インターネット接続事業者)のインターネットイニシアティブ、コンサルティング会社のベリングポイントなどのITベンダーを中心に12団体が参加。日本政府が推進する「環境政策」の理念を具現化し、採算面を含め民間事業として成立させることを狙う。
 2007年11月にプロジェクト計画が発表され、第1期工事設備費用として450億円(このうちIT関連に200億円)を投じられる。サービス開始時期は2010年4月を予定している。同プロジェクトではサンの「モジュラー・データセンターS20」を30個、使用する計画。これにより、従来のデータセンターの約8分の1にまでスペースを削減できるとしている。


著者略歴: ITベンダーに32年間勤務した後、1996年にサービス戦略研究所を設立。日本ITサービス・マーケティング協会会長、国際サービス・マネージメント協会副会長、大阪産業大学非常勤講師。

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